藤田 喬平/Fujita Kyohei
藤田喬平(1921~2004)は、日本では歴史の浅いガラス工芸において、その先駆者と呼べる作家です。日本の伝統美をガラスという新しい素材と現代的な感性によって表現した「フジタガラス」は、国内のみならず海外でも高く評価されています。
1921年、東京都に生まれた藤田は、中学生の頃からガラスに関心を寄せていました。1940年に入学した東京美術学校(現・東京芸術大学)では工芸科彫金部に所属しますが、ここで学んだ金属に関する知識が、のちに金箔や銀箔をガラスのなかに溶かしこむ技術の開発へとつながることとなります。藤田が実際にガラス工芸の道に進んでいくのは戦後、1947年に岩田工芸硝子に入社して以降のことです。2年後には同社を去って独立し、主に百貨店で開催された工芸作家のグループ展や自身の個展を通して、意欲的に作品を発表していきました。初期作品で特に輝きを放つのは、藤田自身が「流動」と名付けた一連の花器やオブジェであり、1964年に発表した【虹彩】はその代表作の一つです。吹きガラスで本体を成形した後、その上に熱せられて形状を変えていくガラスをまとわせたこの作品は、滝つぼの水しぶきのなかに鮮やかな虹の色彩が現れる一瞬を切り取っています。そうしたモチーフとともに、「ガラスは生きもの」という藤田の持論の通り、流動するガラスの生命力が如実に感じられる一品です。
そして、1973年に初めて発表した「飾筥(かざりばこ)」は、彼の芸術の神髄を表している、まさに代名詞と言うべきシリーズです。華やかでデザイン性の高い琳派に着想を得たこのシリーズでは、日本の伝統的な美意識が藤田独自の鮮やかな色彩や優美な装飾で見事に表現されています。欧米でも「フジタのドリームボックス」として人気に火がつき、世界的に一躍注目を浴びる契機となりました。上記の「飾筥」は言うまでもなく、藤田のガラス芸術における一つの到達点ですが、彼自身はそれに甘んじることなく、晩年に至るまで新たな可能性を模索し続けました。1977年からはヴェネツィアン・グラスで有名なムラーノ島で毎年制作を行うようになり、現地の伝統的な装飾技法「カンナ」を用いた文様作品や、大掛かりなオブジェを数多く手がけます。1981年にはスウェーデンのオレホース社にてクリスタル・ガラス作品の制作にも挑むなど、ガラスに対する探究心や好奇心はとどまることを知らず、それが彼の作品を生涯にわたって深化させた力の源であったと言えます。
日本のガラス工芸がまだ美術の分野として確立されていなかった黎明期から、その発展に貢献した藤田の功績ははかり知れません。2002年にはガラス工芸家としては初めての文化勲章を受章しています。
作品名:手吹飾筥 紅白梅
サイズ:H24cm×W25cm
価格:SOLD OUT
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