清水 柾博/Kiyomizu Masahiro
清水柾博(1954~)は、2000年に八代目清水六兵衛を襲名した陶芸家です。
柾博は、江戸後期にあたる1771年に京都の五条坂に開窯した京焼の名家、清水家に生まれました。幼少期から祖父の六代目六兵衛、父の七代目六兵衛の技を近くで見てきた柾博にとって、ものづくりの道へ進むことは極めて自然な選択でしたが、工作や図面を好んでいた彼が最初に選んだのは陶芸ではなく、建築の世界でした。しかしながら、早稲田大学理工学部建築学科で学びを深めていくにつれ、他者との共同作業を通して大きなものを造りあげる建築では、制作のすべてを把握したいという自身の欲求を満たすことができないと気づきます。そのため、同大学を卒業後は、京都の職業訓練校や工業試験場に通い、陶芸家への転身を図るに至りました。ただし、建築学科での経験や空間への関心は、後の陶芸制作にも大きく影響を与え続けることとなります。初めて本格的に土に触れた際、柾博は「非常にインパクトのあるもので、土とはこういうものかということをはじめて経験した」と感じますが、これが、生涯離れることはないと確信できる素材との決定的な出会いとなりました。
1983年の朝日陶芸展’83でのグランプリ受賞は、陶芸家としての実質的なデビューとなりました。その後も国内外の様々な公募展、展覧会にて作品を発表し、陶芸の表現がさらなる拡大を見せた1980年代から90年代にかけて華々しい躍動を見せます。初めはろくろで成形するという一般的な方法を採用していましたが、土を板状にのばしてつくるタタラ成形へ移行し、図面に合わせて土の板を切ったものを貼り合わせて箱型をつくるという、建築のペーパー・モデルに着想を得た手法を編み出します。歴史の長い清水六兵衛ですが、各代の作風がまったく異なることも手伝い、「先代と同じはだめ」という暗黙の了解があったとは本人の語るところです。さらに、器体にスリットを入れることで強度を調整したり、焼成によって生じる歪みやたわみを個性として取り入れたりする造形上の工夫も施され、独自の作風が確立されていきました。柾博の作品は、建築模型を連想させる無機的なフォルムや、金属と見まがう鋭さや硬質感を特徴としていますが、そこに土と火によって偶発的に生まれる焼き物のぬくもりが両立しているのは、上記のような手法が背景にあるためです。
また、釉薬による色付けも作品の個性に深く関わっています。たとえば、彼の作品に多く見られる黒いマットな質感の釉薬は、その寡黙でストイックな色味がシャープなフォルムに適しており、周囲のものや空間に対抗するかたちで存在感を示す一方、乳白色の光沢が美しいオパール・ラスターという釉薬を使う際には、周りの色や景色を映しこむ半鏡面の効果があるため、作品は周囲と調和することで存在意義を持ちます。
1990年代に入ると、タイトルに「空間形状」という言葉が入ることからも窺えるように、作品は目に見えて大型化し、空間を活性化しようとする試みが実践されていきます。そうした精力的な創作活動のかたわら、2003年には京都造形芸術大学教授となって後進の育成にも尽力するなど、歴史を引き継ぎつつ常に新しい感覚をもって現代の陶芸界を牽引しています。







作品名:UNIT D
サイズ:H13.5×W13cm(セラミック 共箱)
価格:100,000円
価格は税抜き表示です
