戸田 浩二/Toda Koji
戸田浩二(1974~)は、元サッカー選手という異色の経歴を持つ現代の陶芸家です。
愛媛県西条市に生まれた戸田は中学生からサッカーを始め、筑波大学体育専門学群を卒業後、プリマハムFC土浦(現・水戸ホーリーホックの前身の一つ)に入団しました。1年間、実業団の選手としてサッカー漬けの日々を送りますが、自身の限界を感じ退団に至ります。故郷には帰らず、福島のペンションで住み込みのアルバイトに勤しむなかで、ひょんなことから興味を持ったのが、それまで何の縁もなかった陶芸でした。そこからの行動力がすさまじく、茨城県笠間市に拠点を移して仲田製陶所で勉強したのち、1998年には陶芸家の伊藤東彦(いとうもとひこ・1939~)に弟子入りしています。サッカーから陶芸という、まったく異なる世界に転身したものの、戸田自身はその二つに「反復して身に付けていく」という共通点を見出していました。その一方で、「サッカーはチームプレーだが、陶芸は自分ひとりが責任を持って打ち込めるところが合っていた」という所感も振り返って述べています。
伊藤のもとで4年間の修業を経て独立した戸田は、2002年に笠間市にて薪窯を築きました。県内で採取してきた土を使って生み出す水瓶や薬壺などの作品には、日常使いというよりもハレの場で用いられる祭器に近い雰囲気があります。須恵器や中国の青銅器が創作の原点にある一方で、優れたモダンデザインとしても高く評価されている戸田の創作においては、古代の造形を忠実に再現するというより、それらが内包する精神性を自身の表現としていかに昇華するかが重要視されています。金属を思わせる質感が印象的ですが、釉薬をかけずに高温で焼きしめることによって、金属にはない温かみや、灰による思いがけない模様も同時に生まれています。また、ろくろをひいたあとに削って成形された表面は極めて薄く、その端正なフォルムは神殿や寺院に身を置くときのように厳かな緊張感をはらんでいます。
2007年には日本陶芸展、2011年には国際陶磁器フェスティバル美濃にてそれぞれ入選を果たしており、2020年、2022年には金沢で「祈りのかたち」と題された個展を開催しています。2022年の個展では、陶土に磁器土を混ぜた、独特の優しい乳白色と風合いが特徴の「白焼締」を発表しました。その造形は、僧が食物などを受け取る際に用いる鉄鉢(てっぱつ)の、ふっくらと丸みを帯びた胴が高台に向かってすぼまっていく様から着想を得ており、祈りを捧げるような佇まいを見事に作りあげています。また、2024年に発表した「尖(せん)」シリーズは大きく膨らんだ胴部のまろやかな造形が特徴的であり、一見すると造形にそぐわないそのタイトルには、内面的で多様な意味がこめられていることが推察されます。また、下に向かってすぼまる底のフォルムには、接地面を限りなく曲面に近づけようとする試みも窺えます。2025年にも個展を開催しており、現代の作陶を牽引する作家の一人として、その手になる新たな造形美に期待と注目は高まるばかりです。




作品名:焼締尖
サイズ:H32×D30cm(セラミック 共箱)
価格:非売品
価格は税抜き表示です
