近藤 竜男/Kondo Tatsuo
近藤竜男(1933~2019)は、その活動期間の約40年をニューヨークで過ごした画家です。
東京都豊島区駒込に生まれた近藤は、東京藝術大学油絵科を卒業後、個展やグループ展の開催、読売アンデパンダン展への出品をしつつ、帝都育英工業高等学校や西武総合学院油画科で教鞭をとりました。
そして、既存の枠組みを離れ自身の方向性を定めていきたいという思いから1961年に渡米し、ニュースクール、アート・スチューデンツ・リーグ、ブルックリン美術館附属美術学校などで現地の美術を学びました。折しも、ジャクソン・ポロック(1912~1956)に代表される抽象表現主義が盛りを過ぎ、前半にはポップ・アート、後半にはミニマル・アートが台頭するなど目まぐるしい変貌を繰り返していた1960年代のアメリカ現代美術の真っただ中で、近藤は自分なりの芸術を模索していくこととなります。渡米前は、カマキリなどの有機的物と矢印やひもといった無機物を併置する油彩画や、石膏の下地に金属が張りこまれるアッサンブラージュ作品などを手がけていましたが、渡米後の初期には抽象表現主義に感化された油彩画を制作するようになり、画面に穴をうがつといった手法も見られます。1964年から68年にかけては、明快な原色で描いた小さなカンヴァスをつなげるコンバイン作品や、画面にマユダマのような木製のオブジェを取りつけた「マユダマシリーズ」が生み出されました。
1969年になると、近藤の代名詞でもある「対角線シリーズ」の制作がいよいよ始まります。アクリル絵具を使い、グレーやブルー、グリーンといった単色からなる画面の明度や彩度を、知覚するのが難しいほど微妙に変化させ、その上に対角線を走らせた繊細で端正な構成は、音楽的とも天体的とも評価されています。本人いわく、特定の作家からの影響ではなく、余計なものをそぎ落とし、最小限に残された自己を突き詰めていくミニマル・アートの姿勢そのものが制作の軸になっていたそうです。しかし、この「対角線シリーズ」がある程度パターン化し、結果のわかっている目的のための作業に陥りつつあると悟るやいなや、近藤は早くも次のステップに進んでいきます。1974年には、絵具をたらしこみ筆跡を生々しく残した油彩作品を手がけ、1980年代半ばには円弧、1990年代には楕円を、対角線にかわるモチーフとして採用するなど、現状に甘んじることのない挑戦を続けました。また、1990年代の作品には、それまで使われていた寒色系の色彩だけでなく、赤や黄といった暖色も取り入れられ、また平坦な色面と手触りの残る色面は一つの絵のなかに収束していきました。近藤の一つ一つのスタイルは一見すると時代ごとに異なりますが、実際には分断されておらず、二面性や対比を含むいくつかの要素が併存しながら徐々に統合され、そして一つの秩序ある世界観が構築されているのです。
こうした一連の作品のほか、「美術手帖」や「芸術新潮」などの雑誌に連載していた文章も、近藤が当時のニューヨークをどのような眼差しで見つめていたのかを知る貴重な資料となっています。
作品名:Arce:Green87-1
サイズ:71×61cm(1987年 キャンバスにアクリル)
価格:150,000円
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