黄 鋭/Huang Rui
黄鋭(ホアン・ロェイ、1952~)は北京生まれの画家であり、モダニズム詩人たちによる文学集団「今天(ジンティエン)」と前衛美術家集団「星星画会(シンシンホアホェイ)」において、創立時から主要メンバーとして活動しました。
文化大革命の時期にあたる1968年から7年間は内蒙古に下放(都市部の知識人を地方に送り出し農業などに従事させる政策のこと)されていましたが、1971年に農閑期で北京に戻った際には詩人の北島(ペイ・タオ、1949~)に会い、その翌年には、のちに「今天」を結成する詩人たちとも北島を通じて知り合うようになります。1975年からは北京の皮革工場で働きながら創作に励みました。しかし、第一次天安門事件の折には政治を扱った詩を発表して逮捕され、釈放後の1977年に中央美術学院を受験するも、父親が元国民党であったことから進学を拒まれるなど、画家としての歩みは困難を極めました。それでも業余画家(本職のかたわらで活動する画家)として創作を続け、「北京の春」と呼ばれる民主化運動が高まる1978年、黄鋭の自宅で文学雑誌『今天』が創刊されました。刊行からわずか1年ほどで北京公安局によって発行禁止処分とされるものの、黄鋭は雑誌の表紙の制作や美術批評の寄稿など、美術担当の編集委員として活躍しました。モダニズム詩人たちの旺盛な活動に刺激を受けた彼は自己表現への欲求をいよいよ募らせ、1979年に馬徳昇(マァ・ダァション、1952~)や王克平(ワン・カァピン、1949~)らとともに「星星画会」を結成しました。このグループも政府の規制によって早々の解散を余儀なくされますが、社会の抑圧や既存の枠組みを打ち壊そうとした彼らの活動は、中国の現代アートを俯瞰するうえで決して見逃せません。
黄鋭の代表作としては、門や窓といったモチーフを使って画面を分割した明るい配色の抽象画がよく知られています。たとえば、門がいくつも連なる北京の故宮を描いた【紫禁城(Forbidden City)】(1981年)は、主に赤や紫が用いられたデザイン性の高い作風で、それぞれの門から人影がのぞくことで奥行きが表現されています。また、六四天安門事件(1989年)直後には、強い憤りをぶつけたような、黒を基調とした激しいタッチの作品が発表されました。近年は、北京朝陽区の工場跡地を、様々なアーティストが集う文化スポット「大山子(ダァシャンズ)芸術区」(798芸術区)として再構築するなど、「星星画会」以来の新しい時代作りにも貢献しています。そして2023年には、中国のポーランド大使館にてウクライナへの連帯を示す作品【平和の欠如】を発表しました。カラフルな5つのカンヴァスに穴を開け、合わせると「PEACE」の文字が表れる本作品からは、自由な表現を求めて戦い続け、そして今もなお権力や暴力に抗う黄鋭の姿が鮮明に浮かびあがります。
作品名:無題
サイズ:44.5×70cm(紙に墨)
価格:300,000円
価格は税抜き表示です